マーリー―世界一おバカな犬が教えてくれたこと
マーリー―世界一おバカな犬が教えてくれたこと

図書館本。

最初にこの表紙を見たときに、なにか泣かせる犬本かと思いました。
次には、確か映画になった話で……副題には「世界一おバカな犬が教えてくれたこと」とあるけれど、なにか機知にとんだ教訓本みたいなものかな?
そう思いつつも、ひとまず借りて帰ることに。

二日かけて読みましたが(改稿があるので、ほんとはそれが終わってからと思ったのに)本日早朝に五分の四をいっき読み。

コラムニストのジョンが新婚時代に子育ての準備運動(?)として妻のジェニーとラブラドール・レトリバーの仔犬を自宅で飼うことに。
しかし、従順で賢いはずの飼い犬マーリーは台風みたいな存在だった。
ソファを齧り、網戸を破り、壁と床をめちゃくちゃに壊してしまう。
特に雷が鳴ったときは最悪で、どうやってあがったのか洗濯機のうえでブレイクダンスをするという。

新聞のコラムニストをしているジョンの筆致がユーモアに溢れていて、一見淡々と家族の出来事や自分の心情を綴っているふうなのに、まるでごく親しい友人として彼らとつきあっているような気分にさせます。
この本を読んでいる最中、何回か吹き出して(ギャグ本でもあまりないことなのに)、そのあと何回か泣けてきて、だけど読後感はしみじみとよかったです。

読後に、そういえば……と昔自宅で飼っていた「まりちゃん」を想い出してしまいました。
まりちゃんはペットショップで買ってきたトイプードルでしたが、母犬から引き離されるのが早かったのか、家にきても弱っていくばかりで、私の父が「帰しに行け!」と厳命し、いったんはショップに戻したものの、やっぱり気になって。
元気になったと連絡をもらったとたん、すっ飛んで引き取りに行ったのをおぼえています。
まりちゃんはかなり賢い犬で、あまり世話を焼かせることはなかったけれど、ゴミ箱あさりはやりました。
誰も家にいないときはかならずそれをやらかすので、いつもは流しの上にゴミ箱を置いて外出するのですが、私がある日いちばん最初に戻ってみると、どうやってのぼったのか、流しのうえでゴミ箱に鼻を突っこんでおりました。
もう夢中。全身全霊でゴミ箱と一体化。
呆れた私がしばしその場に立っていると、なにかの拍子に気づいたのかぱっとこちらに顔を向け、とたん(しまった!)という顔をしました。
犬のそんな顔を見たのは初めてで、なにかもう怒る気にもなれなかった記憶があります。

そんなまりちゃんが大好きなのは、私の母親。
彼女がベッドに寝転んでいるときは、誰であれ近づこうとする者は威嚇の唸りで牽制します。
私はもちろん父親でさえ。
(まりちゃん、あなた、エサとトイレの世話はお父さんがしているんだよ?)
それほど母親が大好きなまりちゃんが、一週間ほど彼女に会えない出来事が起こりました。
刺繍の会でヨーロッパ旅行をしているのですが、まりちゃんには事情がまったくわかりません。
めいっぱい元気をなくし、毎日夕方になると玄関のところに行って、じっとドアを見据えています。
事情を話し、なぐさめても、スルーです。
(当時のヒエラルキーで、私は最下位でした)
やがて一週間が経過して、母親が帰宅したその瞬間。
ドアを開けて入ってきた母親を見たとたん、まりちゃんの目から涙が溢れだし、気が狂ったように彼女の周りを鳴きながら飛び跳ねました。
あんなふうに犬が泣くのを見たこともなく、まるで死んだひとが生き返ってきたみたいな喜びようは、まりちゃんの愛情と忠誠心を嫌というほど感じさせられたひと幕でした。
十二年間、父母と一緒にいて、最期はふたりに看取られながら老衰で亡くなったまりちゃんは、幸せだったと思います。

賢くて、従順で、頭がよくて、気が強くて、やきもち焼きで、愛情いっぱいのまりちゃんがいたお陰で、私もいい想い出がいっぱいあります。
私もまりちゃんに幸せにしてもらっていたんだな、と思います。

そんなふうに大事なことを想い出させてくれた、とても心に残るこの一冊でした。