ビター・スウィート

 吹けば飛ぶよな安アパートの一室で、千晶が箱を差し出した。
「なんだそりゃ」
「鏡司にチョコを……男同士で変だとは思ったけれど」
「阿呆か。あんたは」
 おれは箱を引ったくり、ぽいと畳に投げ捨てた。代わりに千晶の腕をいただき、
「それよりもっと甘いもんを食わせろよ」
 にやりと笑って、やつに命じる。
「服を脱げ」
 少しだけためらって、千晶が服を脱ぎ捨てる。
 おれよか二つ年上の二十一歳の男には到底見えない艶かしさだ。
 黒檀の髪。雪の肌。血のように紅い唇。
 やつのヌードは清らかでありながら凄絶に色っぽい。
 おれは捨てたチョコの箱から赤いリボンを解き取った。
 まぶしいほどの裸身の前にひざをつき、その中心におさまっているナニにリボンを巻きつけてやる。
「な……っ!?」
「なかなか素敵なラッピングだろ。味見してやる。こっちへ来いよ」
 おれは先にベッドに上がった。千晶はおずおずついてくる。邪険な仕種で引き寄せて、かるく胸をいじってやると早くも息が上がり始める。
「ほら見ろよ。乳首がこんなにしこってる。それにここ」
「あ! いやあ……っ」
 巻かれた布からはみだした先のところを刺激する。千晶のそれは赤くなり、きゅうくつそうに起ち上がってた。
「それからここも」
 親指の腹のところで秘処をぐりぐりこすり回すと、千晶のそこがひくつき始める。
「挿れて欲しいか」
 わななきながらうなずいた。
「それじゃあ自分で広げてみせろ」

 ――オレノ餓エヲ満タセルカ?

 震えながら四肢をつき、千晶は高く腰を掲げた。

 おれが千晶と逢ったのは、二年ほど前のこと。初対面はペンデュラム・ダウザーと、依頼人の息子としてだ。
 ダウザーとは、ダウジングを行う占い師。おれは大会社の社長から白蛇憑きの息子の所業で相談を受けたのだ。
 千晶は男を片っ端から誘惑し、それを拒める者はなかった。淫蕩な白蛇はやつの心に潜む魔物だ。本来の仕事とは違ったが、おれはやつを征服し、やつの渇きを癒してやった。
  あれからおれ達は何度か一緒に奇怪な事件を解決してきた。
 生死の境をともに彷徨ったこともある。こっちが助けたことも、霊感の強い千晶のおかげで助けられたこともある。
 それでもその間、やつのことを好きなんて、これっぽっちも思わなかった。
 愛なんてしゃらくせえもん欠片だって必要ない。
 おれ達に必要なのは欲望だけだ。
 千晶を剥いて裸にし、絖のように濡れ光る身体から快感を絞り出す。
 おれの兇器に串刺しにされ、みだらに喘ぐ千晶の姿はまるで妖美な魔性のようだ。
 欲情する。
 したいと思う。
 服を脱がせて、愛撫する。
 その身体の隅々にまで快感を染み透らせる。
 泣かせて、叫ばせて、気絶するまでやめてやらない。
 それが出来るのはおれだけだ。
 並みの男なら、とっくに精を吸い尽くされて昇天してる。
 愛だとか恋だとか、そんな頼りないふやけたもんじゃ千晶の餓えは充たされない。
「まだダメだ。そのスケベな穴を、もっと自分でほぐすんだ」
 細い指が差し込まれるたび、内腿に震えがはしる。めくれあがった柔襞が紅い花を思わせる。
 脳髄が沸騰するほど淫猥な眺めだった。
「んっ……鏡司……もう、許して……っ」
「しゃあねえな。そんじゃどっちか選ぶんだ」
 肩をつかんで振り向かせ、にやつく顔で囁いた。
「リボンを解いて終わりにするのと、このまんまで挿れるのと」

 ――オレデ渇キガ癒セルカ?

 紅い舌。ぬめらかな肌。凄艶に潤む目で、やつは「鏡司が欲しい」と言った。
「ほー。さっすが白蛇様だよな。いいけどな、あとで泣き言はきかねえぜ」
 仰向けに押し倒し、いきなり奥までぶちこんだ。
 言っちゃあなんだが、おれのはそこらの代物とは作りが違う。裂かれるように押し開かれて、千晶の口から悲鳴が洩れたが、おれは気にせず抜き挿しを開始した。
「あんたが弱いのは、ここだったよな」
 奥の奥までぐちゃぐちゃに掻き回し、感じるスポットを攻め立てる。
「……あ、あっ……ひっ……いやぁ……っ」
 ほんとならとっくにイってるはずなのに、キチキチに食い込むリボンがジャマをする。イくにイけない苦しさに細い肢体が身悶えた。
「やらしいやつだな。悶えまくって腰振って。男に犯られるのがそんなに好きか」
「す、き……あ、あぅ……っ」
 半分意識の飛んだ目でおれを見る。
「どんなふうでも……鏡司が抱いてくれればいい。ぼくにキスして、ふれてくれれば……」
 このとき湧いた情感は――愛おしさ、そうだろうか。
 おれは、らしくもない甘ったるい口づけを千晶の唇に与えてやった。
 ふん。こんなときもたまにはあるさ。
 今日は聖者の記念日だしな。

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